
【医師監修】寝る前にできる鼻詰まり対処法は?放置した場合のリスクや受診の目安
夜になると鼻がつまって寝られない経験はありませんか?
実は鼻詰まりは睡眠の質を下げることで、日中の活動へ影響があるだけでなく、精神面にも大きく影響を与え、感情や気分をネガティブな状態にすることがあります。
この記事では夜の鼻詰まりの原因から、簡単にできる対処法まで詳しく解説します。
鼻詰まりを解消して、質のよい睡眠をとりましょう。
Contents
夜になると鼻づまりで寝られないのはなぜ?

体勢や重力の影響
寝床で横になると、立っているときと比べ心臓に血液が戻りにくくなり、血液が頭部に集まりやすくなり、鼻の粘膜が腫れて空気の通り道が狭くなります。
鼻の中にある血管に、血液が貯まってしまうことが原因です。
また、左右の鼻は数時間ごとに交代制で働いていて、右の鼻がよく通っているときは左の鼻は少し休憩、その後役割が入れ替わります。
この現象を『鼻周期(nasal cycle)』と呼び、夜間により目立つため、「片方だけつまる」感覚を夜に強く感じやすくなります。
副交感神経の働き
人間は交感神経・副交感神経によって全身の状態を自己調整しています。
夜になると体はリラックスモードに切り替わり、副交感神経が活発になるのです。
副交感神経が優位となると、鼻の粘膜の血管が拡張します。
すると鼻粘膜も腫れやすくなり、鼻の空気の通り道が狭くなります。
一方で良質な睡眠には副交感神経の働きが不可欠ですので、一概に副交感神経優位の状態が悪いというわけではありません。
日中にストレスが多く、交感神経優位の時間が長い人ほど、代償で夜間に副交感神経が強く働くために鼻づまりは強くなることが考えられます。
空気の乾燥
夜間は湿度が下がりがちで、乾燥した空気によって鼻の粘膜も乾燥してしまいます。
鼻の粘膜は本来、適度な湿り気を保って外からのホコリや細菌をブロックするバリアの役割を果たしています。
ところが、乾燥によってこのバリア機能が低下すると、鼻は自分を守ろうとして粘膜を腫らせる反応を起こすのです。
さらに、鼻の乾燥感は脳では「鼻がつまっている」という感覚として受け取られるため、実際に鼻づまりを強く感じてしまいます。
室温の低下による影響
夜間の気温低下により血流が悪くなると、鼻粘膜の循環も滞りがちになります。
室温を25℃から15℃に低下させた際の鼻通りの変化を測定すると、多くの患者さんで鼻通りが悪くなり、室温の低下が鼻づまりを引き起こす可能性があることが言われています。
アレルギーの影響
寝室はダニやハウスダストが多いです。
特にベッドシーツや枕カバーには、私たちの皮膚から落ちたフケやアカがたくさん蓄積されています。
ダニはこうしたフケやアカを餌として繁殖し、やがてダニの死骸や糞がアレルギーの原因物質(アレルゲン)となります。
夜間、これらのアレルゲンに長時間さらされることで、鼻粘膜が腫れるだけでなく、アレルギー性鼻炎などのアレルギー症状全体が悪化しやすいです。
睡眠時無呼吸症候群の影響
睡眠時無呼吸症候群とは、睡眠中に呼吸が止まったり浅くなったりを繰り返す病気です。
この病気は全身に炎症を起こし、その炎症がさらにアレルギー性鼻炎を悪化させるという悪循環が生まれることも分かっています。
逆に鼻づまりのある方は、閉塞性睡眠時無呼吸症候群になるリスクが2倍高いといわれており、双方向の関係も最近では指摘されています。
鼻づまりで寝られない状態を放置するとどうなる?
私(耳鼻咽喉科 永田義之)が担当した患者さんで、鼻づまりによる睡眠障害でお悩みの方(35歳男性)がいました。
なぜか毎年春になると、日中眠気と倦怠感で内科を受診されましたが、特に原因がはっきりせず。
3月中旬にのどがイガイガする(鼻症状なし)ということで、私のもとをたまたま受診されました。
診察するとのどがアレルギーが原因で炎症していたためアレルギーに対する処方。
アレルギー薬を服用した患者さんは、のどの症状の改善はもちろん、薬を使用してから日中のだるさや眠気が改善したとの報告をいただきました。
この患者さん、自覚症状は全くありませんでしたが、鼻の中をのぞいて見ると鼻の粘膜がかなり腫れていて、ほとんど鼻で呼吸ができていない状態だったため、夜間は鼻呼吸ができていなかったようです。
鼻呼吸ができないと自然に口呼吸に切り替わりますが、口呼吸はいびきや無呼吸を誘発し、これらは睡眠中に覚醒反応(目を覚ますような反応)を誘導するため、良質な睡眠がとれません。
3月におこる重症な鼻炎所見といえば、皆さんご存知の花粉症です。
この患者さんは、花粉症の影響で、睡眠障害を起こしていたのです。

花粉症を含めて、アレルギー性鼻炎の中等症、重症では半数以上の患者さんで睡眠の質が低下していると言われています。
このように、睡眠の質が低下することによって、日中にパフォーマンスが落ちることが短期的には考えやすいです。
それだけでなく、長期的にこの睡眠障害の状態を放置することで様々な深刻な問題につながります。
睡眠の問題は、脳・心身健康の維持・増進や能力開発、肌など美容関連と広く関係します。
肌荒れがひどい人が、睡眠が原因と自覚せずに長期的な肌ケアを続けて効果がないな・・・と感じている人も多いです。
さらに睡眠障害の原因が鼻づまりだっとということも、現代人では多いと考えます。
睡眠問題は、高血圧、肥満、糖尿病といった生活習慣病だけでなく、うつ、認知症のリスクを高めてしまうでしょう。
また、睡眠不足や睡眠の質の低下は、人間が人間らしく生きるための脳である前頭葉機能の意欲を司る脳、感情をコントロールする機能、記憶、学習のパフォーマンスの低下とも関係します。
このような機能が慢性的に阻害されると、心の病気を発症しやすくなったり、社会的に生きづらい状態になったりします。
さらには、生活習慣病から心筋梗塞や脳梗塞といった致死的な疾患を引き起こすリスクも高くなることから、幸福な人生を構築する上での一つの柱である健康(身体的、精神的、社会的な)を大きく害する原因となりうるのです。
寝る前にできる鼻づまり対処法

鼻うがい
もともと鼻炎(特にアレルギー性鼻炎)がある場合は、日中に鼻の中に溜まった花粉やダニ、ホコリなどを鼻うがいで洗い流すことで、夜間に増悪するアレルギー反応としての鼻づまりを予防します。
また、夜間は空気の乾燥から鼻腔内も乾燥することが多く、鼻うがいをすることで、鼻の乾燥感、鼻閉、睡眠障害の改善がされたという報告もあります。
具体的には、鼻洗浄キットを購入し、37℃くらいの人肌くらいの生理食塩水(0.9% 1Lの水に食塩9g で調整)で就寝前に鼻うがいをしてみるとよいでしょう。
寝姿勢や枕を工夫して通りやすくする
仰向けでは、血液が鼻の血管に溜まりやすくなることで鼻づまりが悪化することが報告されています。
枕を少し高めにして上体を軽く起こして寝ると、重力による血液の集中を緩和できます。
また詰まっている側を上にして横向きに寝るのも効果的です。
これは、腋の下やお尻のあたりを圧迫すると、反対側の鼻が通るという神経反射を利用したものです。
加温・加湿で鼻粘膜を保護する
理想的な湿度は50〜60%です。
加湿器がない場合は、濡れたタオルを枕元に置いたり、洗濯物を室内に干したりするだけでも効果があります。
また、ぬるめの蒸しタオルを鼻に当てる(温熱療法)はとても有効です。
3分間ほど、蒸しタオルを鼻の根元から頬に当てて温めることで、血流改善、鼻水をサラサラにする効果が期待できます。
目に当てるとリラックス効果もあります。
入浴をすること
シャワーだけで済ませずに、ちゃんと入浴をすることが大切です。
入浴をすることで全身の末梢血管が拡張します。
それによって、鼻腔の血液のうっ血を緩和させます。
また、鼻の中の粘膜にある線毛機能が活性化されることで鼻づまりの改善が可能です。
そのほか、鼻腔内の乾燥を緩和する効果もあります。
入浴自体がリラックスする効果があり、交感神経を抑制して、副交感神経を優位にします。
日々のストレスが強い方は交感神経が優位になっており、夜間はその反動で副交感神経が強く起こり、それによって鼻づまりが起こるのです。
入浴はその機序においてリラックスを強制的に誘導することで、夜間の鼻閉が改善すると考えられています。
しかし、入眠直前の入浴は入眠困難の原因となるので、入浴後2~3時間してから床につくようにしましょう。
鼻腔拡張テープの使用
鼻腔拡張テープは有効な人には非常に有効です。
しかし、これが有効なのは、鼻の入り口のレベルで鼻が狭い(鼻弁狭窄症)人に限定されます。
鼻を勢いよく吸ったときに、『ズッ、ズッ』と音がする場合は、鼻弁狭窄症の可能性があり、鼻拡張テープが有効であることがあります。
やめるべきこと
日中にカフェインの摂取が多いと交感神経が刺激され、リバウンドで夜間に鼻づまりが起こりやすくなります。
コーヒーの摂取は、午後2時くらいまでにしておきましょう。
また、夜間に飲酒をすると血管拡張作用により、鼻づまりが悪化します。
感覚的に飲み会のときにうまく声が出しにくくなることがあるかと思いますが、これはアレルギー性鼻炎がある方がアルコールにより粘膜が腫れてしまい、鼻声になるのです。
アルコールによる影響と相まって睡眠の質は非常に落ちます。
精油による鼻づまりへの効果
ユーカリやペパーミントに含まれるメントールは鼻づまりを改善させる効果があります。
実際には、鼻の粘膜が収縮するわけではありませんが、鼻の粘膜の感覚に作用して鼻が通った感覚を誘導することが可能です。
しかし、メントールには軽度ですが覚醒効果があります。
特に高濃度の吸入では刺激が強く、睡眠を妨げる可能性があります。
就寝前に使用する場合は、低濃度、短時間、刺激の少ない製剤を使用することがおすすめです。
低濃度のユーカリとリラックス効果のあるラベンダーを配合させ、就寝前にディフューザーで吸入することで鼻閉改善+リラックス=良い睡眠が得られるかもしれません。
布団に入っても眠れないときの鼻づまり対処法

上体を起こして寝る(上半身を起こす)
どうしても詰まりが取れない時は、クッションや枕を重ねて上体を30度程度起こして寝てみましょう。
この角度で横になることで、重力で鼻粘膜にうっ滞した血液を心臓に戻りやすくします。
この姿勢は夜間の逆流性食道炎の予防にもなり、起床時はスッキリしていることが多いです。
また、神経の反射を利用して、詰まっていない鼻側を下にして横向きで寝ることも鼻づまり改善の効果があり、有効です。
精油を染み込ませた蒸しタオルを作る
特におすすめなのが、リラックス効果のあるラベンダーの精油をタオルの数滴染み込ませ、蒸しタオルを作ります。
これを鼻の上にしばらく当てることで、血流改善とリラックス効果で、鼻粘膜の腫れを軽減できます。
市販の鼻粘膜収縮薬を使用する
ここまで試して、改善が乏しい場合は、鼻炎の状態が強く、鼻腔内の形態異常が強い可能性が考えられます。
市販薬として、鼻粘膜収縮薬の点鼻薬は市販薬として購入できます。
就寝前の鼻づまりが強い場合の使用がおすすめです。
しかし、基本的に血管を収縮する薬剤が有効成分として含まれています。
これを日中に何度も使用してしまうと、薬剤性鼻炎(点鼻性鼻炎)を引き起こし、鼻炎の悪化を誘発する恐れがありますので、使い過ぎには注意しましょう。
鼻づまりで寝られない状態が続くときは医師に相談

以下のような症状が2週間以上続く場合は、耳鼻咽喉科への受診をおすすめします。
- 毎晩鼻づまりで眠れない状態が続く
- 頭痛や顔の痛みを伴う
- 黄色い鼻水が出る
- においが分からない状態が続く
- これまで挙げてきた対処法を実践しても効果がない
考えられる疾患
- 中等症以上のアレルギー性鼻炎
- 鼻中隔弯曲症などの鼻腔の形態異常
- 急性副鼻腔炎(かぜの後)
- 慢性副鼻腔炎の悪化
- 鼻腔腫瘍(良性・悪性腫瘍)
- 鼻腔異物(ティッシュやおもちゃなど)
などがあり、長年困っていた鼻症状が案外スッキリわかることがありますので、思いきって耳鼻咽喉科に相談してみることは大切です。
まとめ
睡眠時間を十分とることも大切ですが、適切に寝ることができているかという『睡眠の質』も非常に大切です。
鼻づまりは睡眠の質を低下させる大きな要因です。
週に3回以上、「就寝時に鼻づまりがある」と報告した人は、睡眠時無呼吸症候群を有するリスクが約2倍に増加すると報告されています。
また、病院で処方される鼻噴霧ステロイド薬を鼻炎の患者さんに使用した際に、睡眠スコアや睡眠検査における覚醒反応が低下したとも報告されており、鼻づまりの改善が睡眠の改善に寄与することは証明されています。
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